エグゼクティブサマリー:特許法では、特許侵害が意図的と判断された場合に、損害賠償の裁定額を地裁が最大3倍増額することが認められています。Haloに関する最高裁の裁定では、故意侵害に対する法的しきい値が引き下げられました。その結果、特許権者は損害賠償額の増額の裁定を獲得しやすくなりました。故意侵害による損害賠償の増額の裁定を回避するため、侵害被疑者は、今や、特許侵害の疑いをかけられてから比較的早い時期に非侵害または無効の裁定を獲得できるように十分に検討しなければなりません。
詳細情報:Halo Electronics v. Pulse ElectronicsとStryker v. Zimmer, 136 S. Ct. 1923 (2016)で、最高裁は、故意侵害に関する従来の法的基準と突き合わせました。 この従来の法的基準は、In Re Seagate Tech., LLC, 497 F.3d 1360 (Fed. Cir. 2007)の連邦巡回裁判所による判決で列挙されたスキームの中で提示されました。Seagateの件で、連邦巡回裁判所は、客観的にみて侵害被疑者が自らの行為により有効な特許の侵害が生じる可能性が高いにもかかわらずかかる行為をなしたことを、特許権者が明白で説得力のある証拠により実証しなければならないという要件を追加しました(「客観的要件」)。その際、連邦巡回裁判所は、過失の事実認定と同類の故意の事実認定を扱ったUnderwater Devices, Inc. v. Morrison-Knudsen, 717 F.2d 1380, 1389-90 (Fed. Cir. 1983)で自ら下した判決を却下しました。 その結果、Seagateは、「相当な注意を払う積極的な義務」を放棄し、侵害被疑者は弁護士の意見を求める必要がないことを再度強調しました。 最終的に、Seagateのケースでは、侵害者が侵害リスクを知っていた、または知るべきであったことを特許権者が立証しなければならないという判断に至りました(「主観的要件」)。
最高裁は、Haloについて、Seagateで列挙された故意の事実認定のスキームが柔軟性を欠くと判断しました。 最高裁は、特許権者による無謀性の立証の必要性、つまり、「客観的要件」を廃止しました。 故意性、ならびに損害賠償の増額に関する審査は現在、もっぱら、侵害被疑者の心理状態、いわゆる主観的要件に主眼が置かれるようになりました。もっと具体的には、侵害認定は、侵害者が侵害リスクを知っていたかどうか、または知っていたと考えることが妥当かどうかに依拠するようになりました。 また、最高裁は、特許権者の故意性の立証基準を「明白で説得力のある」から「証拠の優越」に変更しました。
さらに、最高裁は、特許法の284条の「地裁は損害額を最大3倍に増額できる」という規定についても述べました。最高裁は、「地裁は~できる」という文言は、議会が故意判断を地裁の裁量に委ねようとする、「主観的要件」を不当に制限するものと判断しました。 よって、最高裁は、連邦巡回裁判所のSeagate裁定に規定された故意審査の「客観的要件」全体を排除しました。
故意侵害による損害賠償の増額の裁定に裁量を適用する上で、最高裁は、200年以上にわたって適用および解釈されてきた特許法の「健全な法律原理」に地裁は「導かれるべきである」と述べました。 これらの原理では、損害賠償の増額の裁定を典型的な侵害を超える甚だしいケースに限っています。 最高裁は、何が「典型的な侵害を超える甚だしい[].」を構成するのかについての定義は述べませんでしたが、公判の際に得られた独立した弁護士の意見は、故意侵害の認定を避ける目的にはほとんど影響を持たないことを述べました。 このことは、主観的要件の心理状態の審問から由来するのが自然です。 つまり、侵害被疑者が侵害のリスクを知っていたかどうか、または知っていたことが妥当かどうかについて、裁判間際の意見を得てもほとんど影響はありません。
判例法で「甚だしい侵害」と「典型的な侵害」の間の区別が定義されるまでは、侵害被疑者は、権利不侵害または無効性の意見を独立した弁護士から得ることを十分に検討することが得策かもしれません。ただし、それは、侵害リスクに気付いてから比較的早い時期に、公判の開始直前の時期を避けて行ってください。