エグゼクティブサマリー: 2017年3月の法廷で、最高裁はIn re TC Heartlandの連邦巡回裁判所の判決に関する口頭弁論の審理を行った。同裁判で、連邦巡回裁判所は非実施主体(「NPE」)がテキサス州東部地区やデラウェア州地区などの特許に有利な司法管轄区において簡単に裁判を起こすことを可能にした、25年前の同裁判所における判例を支持した。適用判例と立法経緯を検討したBauz知的財産法律事務所は、最高裁判所において特許裁判の裁判地を企業が「居住する」司法管轄区へ限定すべきであるという説得力のある論拠があると判断した。つまり企業が設立された州あるいは企業がそこで(1)特許侵害行為を行いかつ(2)本社を置く、司法管轄区である。この展開により、テキサス州東部地区とデラウェア州地区が恣意的に裁判地として選ばれ特許訴訟が起こされることは大幅に削減されるであろう。今日これら2つの司法管轄区においてすべての特許訴訟のおよそ60%が行われている。
詳細情報:
連邦巡回裁判所のIn re TC Heartland LLC, 821 F.3d 1338 (Fed. Cir. 2016)は、企業被告が「居住する」場所に関連し、特許固有の裁判地法である合衆国法典第28編第1400(b)条を、一般裁判地法の合衆国法典第28編第1391条が補足すると判決した。この判決は対人管轄権と同等視することにより実質的に裁判地を拡大するものである。言いかえれば、ある司法管轄区に訴えられた商品が存在するというだけで、正しい裁判地と結論することができるのだ。しかし裁判地法とそれに対応する立法経緯を、拘束力のある最高裁判所判例と組み合わせることにより、異なる結果を強く裏付けることができる。
最高裁判所判例
Stonite Products
最初に成文法となった特許固有の裁判地に関する法令は1911年裁判所法典第48条である。この法律は、特許侵害訴訟は「被告が住民である地区」に持ち込むことができる、と規定している。1942年、最高裁判所はStonite Prods. Co. v. Melvin Lloyd Co., 315 U.S. 561 (1942)の裁判で、特許訴訟においては第48条が唯一の規定であるか、あるいは第52条が補足し一般裁判地規定が適用されるかという命題に直面した。国会における特許固有の裁判地の採択につながった判例と、立法経緯を検討した後、最高裁判所は「[特許固有の裁判地規定]第48条は、特許侵害訴訟の裁判地に適用される排他的な規定である」と結論した。最高裁判所はStoniteにおいて、事実上、特許訴訟を適切に管轄することのできる地方裁判所の数を狭めている。
Fourco Glass
1948年に国会は第48条を第1400(b)条で差し替えた。関連する部分で、国会は、第48条の「被告が住民である」という文言を、新たに制定された第1400(b)条において「被告が居住する」という文言に言い変えた。「居住する」という文言は一般裁判地法第1391(c)条にも存在する。この結果「居住する」という共通の文言が、2つの条文の間の関係性についての問題を生じさせた。言いかえれば、国会は、新しい特許固有の裁判地について一般裁判地法を排除しようとしたのか、あるいはそれによって補足させようとしたのかという問題である。
1957年、最高裁判所はFourco Glass Co. v. Transmirra Products Corp, 353 U.S. 222 (1957)の裁判において、まさにその問題に言及した。最高裁は「かかる意図が明確に示されない限り、法の改正と統合において国会がその効力を変更しようと意図したとは推論できない」としている。同文献 227。1948年における第1400(b)条の立法経緯にそのような意図はなかったと判決した最高裁は「住民」という文言を置き換えた「居住」という文言は、前と同義でありどちらも設立州を意味すると判断した。同じように最高裁は、共通の文言である「居住する」を採用すること自体がそのことによりStoniteにおける最高裁判決を変化させる因果関係を生み出さない、と結論している。最高裁は「第1400(b)条はその先行法である1911年の裁判所法第48条と同様に、特許侵害訴訟の裁判地を管轄する唯一かつ排他的な規定である」判決した。同文献。
Brunette Machine Works
1972年、最高裁判所はBrunette Mach. Works, Ltd. v. Kockum Indus., Inc., 406 U.S. 706 (1972) において、第1400(b)条または第1391(d)条は、外国企業が関与する特許訴訟の裁判地に適用されるべきかについて論じている。この点について一般裁判地法第1391(d)条のみが、このような訴訟の適切な裁判地の問題に明示的に言及している。最高裁は、第1391(d)条は「外国人に対する訴訟は、一般規定か具体的規定かにかかわらず、すべての連邦裁判地法運用の完全な適用外にあるという以前より確立している規則の宣言」とみなすことが適切であることを明確にしている。Brunette 714。最高裁はそれゆえ第1391(d)条が適用されると判決した。
連邦巡回裁判所の判決
VE Holding
1988年、国会は第1391(c)条を改正した。改正では「本章において裁判地については」という修飾句が追加され、また企業が「居住する」という文言について「裁判が開始された時点で企業が対人管轄権に服する任意の司法管轄区」を意味すると再定義した。第1400(b)条は上と同じ章に入り、共通の文言である「居住する」を使用していることから、裁判地の命題についての新しいバリエーションとして、改正第1391(c)条が第1400(b)条を補足することを国会が意図したか、という問題が提起される。国会がこれを意図した場合は、より多くの司法管轄区が裁判地として適切になる。なぜならば特許訴訟における対人管轄権は、往々にして特許を侵害する製品がどこで見つかった、つまりそれらの製品がどこで「作られ、使用され、販売されまたは提供されたか」という点に収束するためである。2年後、連邦巡回裁判所はVE Holding Corp. v. Johnson Gas Appliance Co., 917 F.2d 1574 (1990)において裁判地の問題に言及した。
VE Holding Corp.において連邦巡回裁判所は、国会は第1391(c)条を改正することにおいて、第1400(b)条を補足することを意図したと判決している。連邦巡回裁判所は、「本章において裁判地については」という文言を取り上げ、これは第1391(c)条を、第1400(b)条を含む第28編の87章すべてに適用することを意味したと結論している。連邦巡回裁判所は「法律の文言は明確であり、その意味ははっきりしている」と論じている。同文献 1580。しかし一方で連邦巡回裁判所は、「この改正が第1400(b)条や87章の他の条項の問題に影響を与えることを国会が意図したか、またはどのような影響を与えることを国会が意図したか」について国会は触れていない、と認めている。同文献 1581。連邦巡回裁判所はまたBrunetteにおいて、第1400(b)条はもはや特許訴訟における「排他的な」裁判地規定ではないとする立場を示しており、それにより、Fourco Glassの影響の範囲を制限するとしている。結果としてVE Holdingは実質的により多くの司法管轄区において企業を訴えることを容易にした。
VE Holdingの判決は間違っていたとする説得力のある議論が存在する。まずVE Holdingの論拠は改正法の解釈に関し最高裁が指摘した内容と明示的に矛盾している。巡回裁判所は「国会は、法の改正と統合を行うにあたって、かかる意図があることを明確に表現しない限り、その効力を変化させようと意図した」と推論すべきではなかった。Fourco Glass 227。上述の通り、連邦巡回裁判所は、立法経緯はないことを認めている。それにもかかわらず巡回裁判所は、国会は第1400(b)条は第1391(c)条によって補足されたと結論し、それにより許しがたいことに「その効力を変化させる」と結論している。同文献。2つめに Fourco GlassとBrunetteはあわせて、具体的な裁判地規定は、一般的な裁判地規定に優先するという立場を示しているだろう。この解釈に従えば、最高裁判所の判例は別の結果を導き出す。つまり、第1400(b)条は、特許訴訟については企業は居住地(にて訴訟)と具体的に規定しているため、企業が米国外に「居住」しない限りこの規定が優先されるべきである。これらの2つの理由だけでも、VE Holding裁判は間違った判決であるという主張が合理的に裏付けられる。
In re TC Heartland
2011年、国会は第1391条を再度改正した。「本章において裁判地については」という文言は「すべての裁判地について」と変更された。2011年改正で他に関連する唯一の部分は第1391(a)条であり、この条項は「セクションの適用可能性 – 法による別段の規定がない限り」という文章で始まっている。
5年後、連邦巡回裁判所はIn re TC Heartlandにおいて再度、裁判地法に関する最近の法律改正にかんがみ、裁判地の問題に触れている。連邦巡回裁判所はVE Holdingにおける自身の判決に従い、類似の論拠を適用し、第1391(c)条は第1400(b)条を補足すると結論した。従って、VE Holdingの問題ある判決はIn re TC Heartlandに組み込まれることになった。その結果として、NPEは原告に優しい、そして通常は不便な裁判地において特許訴訟を提起するという手法を続けることとなった。
結論
連邦巡回裁判所は特許訴訟における裁判地に関する法律の解釈を間違ったという説得力のある主張が存在する。従って最高裁判所はFourco Glassにおけるその判決を復活させ、In re TC Heartlandの判決を覆す可能性がある。その場合、特許訴訟における裁判地は第1400(b)条に限られる。より具体的には、国内企業の裁判地についてのみ言えば、または、外国の子会社と一緒に訴えられた場合も、その企業が設立された(「居住する」)州または、(1)同社が侵害行為を行いかつ (2)その本社を置く場所の司法管轄区に限定される。結果として、最高裁判所は、NPEによるデラウェア州地区やテキサス州東部地区などの原告に優しい司法管轄区の裁判地選びをやめさせることになろう。